ミユとレイのてんしとあくま Vol.2
―趣味の悪いピエロがこちらを見ている。―
なんか怖い。なんか危ない。本能がそう告げている。
逃げなきゃいけないのに、ミユは、あまりの恐怖で声が出ない。
だれも、ピエロに気が付いていないのか。時が止まっている。誰かが落とした消しゴムも宙に浮いている。この無風の中、友人の髪が風でなびいてるように見える。
どうしようもなく身動きがとれないでいると、ピエロは教室内を見渡し、突然甲高く気味の悪い声で笑い始めた。
「キャッハハハハハハハ!!!見つけましたよオヒメサマァ!才色兼備で周囲の人々からも慕われる完璧ニンゲン!そんな貴方が悪魔になったら、きっと楽しい世界に変わっていくでしょう!ワタシが導いて差し上げますよォ!」
名前を言わなくても、誰の事かすぐに判った。
(レイさんが危ない!)
いつもそっけなくしていたけれど、本当はもっとお話をしたかった。もっと親しくなりたかった。
願わくば・・・
「せいっ!!」
きっと、この気持ちは・・・
ピエロは、どす黒い光の玉を彼女に投げつける。
(レイさんを・・・守らなきゃ!動いて!私の体!!)
恐怖心よりも、目の前の彼女を守りたい気持ちが大きくなった。その瞬間、ふっと体が軽くなり、彼女の元へ駆け寄る。
(お願い!間に合って!!!)
強く願ったその瞬間、あたりはまっくらになった。
ミユとレイのてんしとあくま Vol.1
ある夏の朝。
テレビをかければ、例年通りの暑さになることを告げる天気予報。
よくある、遅刻気味の女子高生が、
「遅刻遅刻ぅ~」
と言いながら、蝉の合唱が鳴り響く中、パンをほおばりながら走るテッパンの図。
彼女の名はミユ。七色が丘高校に通う2年生。成績は中の中。国語の一部と美術が得意。桃色の髪に、特徴的なツインテール(?)を揺らしながら校門を突破する。
その校門の前にいたのは、奇麗なストレートの髪で一切着崩しせず、校則にのっとり生徒の模範ともいえる容姿の彼女、レイの前をミユが飛行機のように両腕を広げ、駆け抜けていく。
「おはようございます」
レイは、危うく遅刻しそうになるクラスメイト、ミユに声をかけた。
「お、おはようございます・・・」
突然顔を真っ赤になりながら、なんとか返事をしたと思えばそそくさとその場をあとにした。
毎朝の通例行事だ。男子からも人気で、密かに非公認ファンクラブなんかもあるらしいレイ。そんな人が、いくらクラスメイトで、彼女が生徒会で、仕事で・・・とはいえども、声をかけてくれるだけで恥ずかしくなる。唯一、勇気を振り絞って挨拶を返すだけの関係。それでも十分過ぎるほど嬉しいのだ。
夏の暑さに輪をかけて、全力ダッシュで登校し、校門でレイとの通例行事をしたわけで、もう汗だくになった。いよいよ、夏本番といったところだ。
ホームルームが始まった。夏休みに向けた課題や行事等の話題が大半。担任に代わり説明するクラス委員のレイを、雲の上の人を見るかのような眼差しでミユは見ていた。
(奇麗な人だなー)
すると突然、喧噪が嘘のように静かになった。クラスメイトも微動だにしない。周りを見渡しても動いているのは自分だけのようなのだ。唯一、窓の外に見慣れない光景があった。趣味の悪いピエロが、外からこちらを見ているのだった。